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ラマユルからワンラへのハイキング – ラダックの過去を歩く静かな旅

時が始まる場所 − ラマユル僧院

ラダックの険しい尾根に朝日がゆっくりと昇り、ラマユルの風化した崖に長い影を落とします。標高およそ3,500メートル。ここへ来るということは、ただ到着するのではなく、まるで時の外側にある場所に目覚めるような感覚です。「ラダックのムーンランド」として知られるラマユル村は、派手な歓迎ではなく、深い静けさで旅人を迎えてくれます。

レーからラマユルまでの道は、まるで映画のワンシーンのように曲がりくねっています。断崖絶壁、岩の上に翻る祈祷旗、そして時おり姿を現す崖の上の僧院。しかし、本当の到着は道路を離れ、ラマユル僧院という修行の世界に足を踏み入れたときに訪れます。ここはラダックでも最も古く、精神的にも重要なゴンパ(僧院)のひとつです。

11世紀に創建され、チベット仏教ドゥリクン・カギュ派に属するラマユル僧院は、祈りの場であると同時に、ヒマラヤの歴史が今も息づく場所でもあります。中に入ると、回転するマニ車、何世紀も前のバターランプの煙で色あせたタンカ(仏画)、そして朝のお勤めを唱える僧たちの低く響く声が出迎えてくれます。中庭を掃除する僧侶の姿や、仏塔の陰からそっとこちらを覗く赤い法衣の子どもたち。ここは博物館ではありません。今も生きている場所なのです。

この静かな空間の中に立つと、空気はジュニパー(杜松)の香と古くからの沈黙に満ちていて、ここが単なる出発点ではないことが分かります。これは精神的な入り口なのです。ラマユルからワンラへの道のりは、ただの景勝地巡りではなく、信仰と風によって形づくられた風景を歩く体験への招待状なのです。

特にパッケージ化された旅では満たされないヨーロッパの旅人にとって、ラマユルは深い感動を与えてくれる場所になるでしょう。その荒々しさ、文化の本質、祈りに満ちたリズムが、観光地化された場所にはない本物の魅力を放っています。ここには急ぐ理由はありません。商業的な騒がしさもありません。あるのは、ゆっくり歩き、じっくり見て、静かに耳を傾けてほしいという、この地からの招待だけです。

ですから、出発は焦らず、敬意をもって始めてください。まずはラマユルの静けさに耳を傾けてみましょう。トレイルを歩き出すその前に、あなたの内側の何かがすでに旅を始めているはずです。

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道がひらく − 古道を歩く

ラマユルの石垣を背にして歩き出すと、道はゆるやかに下っていきます。最初の数歩は、まるで儀式のよう。まだ本格的なハイキングではなく、ただこの土地のリズムに身をゆだねていく感覚です。僧院の鐘の音が風に溶けていくと、耳に届くのは足元の砂利を踏む音と、遠くで揺れる大麦の葉音だけ。ここはかつて巡礼者や商人、農民たちが歩いた道。ラダックの記憶が刻まれた生きた道を、あなたは今、歩いています。

標高3,750メートルのプリンキティ・ラ峠に近づくにつれ、空気は澄み、少し薄くなります。この峠はヒマラヤの中ではそれほど高くはないものの、他にはない親密さがあります。人の姿はなく、チェックポイントもありません。あるのは静かな山々と、空高く舞うヒマラヤのハゲワシの羽ばたきだけ。布のように重なり合った地層の上を歩き、マニ石やコケに彩られた道をたどります。

このラマユルからワンラへのトレイルこそ、スロー・トラベルの真髄です。道のひとつひとつが物語を持っています。柳の木陰に隠れた泉、崖に飲み込まれかけた仏塔、低い声で羊を導くひとりの遊牧民。ここは本格的な登山よりも、文化を感じる穏やかなトレッキングを求める人に最適なルートです。ラダックの大自然と村人たちの日常にそっと触れることができます。

でも、この道の魅力は風景だけではありません。未完の物語を歩いているという感覚があるのです。地元の人々はいまもこの道を使い、親戚を訪ねたり、収穫物を運んだり、寺院へ祈りを捧げに行ったりしています。道中で出会う年配の女性、荷物を背負ったロバを引く少年。どれも演出ではなく、ラダックの日常なのです。それこそが、この旅を特別なものにしています。

ヨーロッパの旅人の中には、心に残る旅を求めている人が多いでしょう。この道は、そんな人にぴったりです。ただ目的地に到達することではなく、足元のリズムに身を委ね、ラダックという世界が少しずつ目の前に広がっていく感覚を味わってください。

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心で響く村 − ワンラ

プリンキティ・ラの峠を越え、谷へと下る道を進むと、風がやわらぎ、足音が静かになります。そして前方に現れるのが、岩山と川の流れに囲まれた小さな村、ワンラです。地図の上では終着点かもしれませんが、実際にここへたどり着くと、旅がそっと心に落ち着くような感覚があります。

ここでは大きな歓迎の声ではなく、飼料を運ぶ女性の頷きや、木造のバルコニーに腰掛ける子どもの静かな視線が迎えてくれます。ワンラ村は、観光地化されていない、ラダック中世の面影を今に伝える場所。空気には乾いた土とアンズの薪の匂いが混じり、石積みの家の間には大麦畑が広がっています。水は古くからの水路で引かれ、村の暮らしは静かに営まれています。

村を見下ろすようにして建つのが、14世紀に建立されたワンラ僧院(ワンラ・ゴンパ)です。岩肌に溶け込むようにひっそりと建ち、今でも地元の人々の信仰の中心として息づいています。3階建てのアバロキテシュヴァラ像はとても貴重で、その穏やかな表情のまわりには、時間とともに色褪せた壁画が描かれています。この静けさは、ただの無音ではなく、祈りが満ちた静寂なのです。

宿泊するなら、ぜひワンラのホームステイを体験してください。ホテルのような設備はありませんが、ここには本物の温かさがあります。低く白く塗られた台所で、クロスレッグになって座り、ホストと一緒にカンビルというパンを焼いたり、バター茶をすすったり。遠くで子どもたちの笑い声が響き、ラダックの家庭の暮らしにそっと混ざるような時間が流れます。

商業的ではない、本物の体験を求めるヨーロッパの旅人にとって、ワンラはまさに心に残る場所になるでしょう。ここで出会うものは、用意された演出ではなく、今も毎日繰り返されている暮らしそのものです。訪れるのではなく、そのリズムに身を置くこと。それがワンラでの旅です。

このトレイルのクライマックスというよりも、静かな息抜きのような場所。それがワンラです。音も色もやわらかく心に残るこの村の記憶は、帰路についても、きっと長くあなたの中に生き続けることでしょう。

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旅の準備 − ラダックでスローに歩く

ラマユルからワンラまで歩く旅。それは単なる景色を眺めるためのハイキングではありません。時間の流れに身をゆだね、ラダックを深く体験する手段なのです。とはいえ、この静かな旅にも、ちょっとした準備は役に立ちます。山での旅においては、シンプルさこそが最大の味方になります。

ラマユルからワンラへのトレッキングのベストシーズンは、5月下旬から10月中旬まで。空は澄み、気温は穏やかで、道も歩きやすい時期です。ヨーロッパから訪れる場合は、夏の終わりごろを狙うと、黄金色に染まった大麦畑や、村の収穫祭といった季節ならではの風景に出会えるでしょう。

このトレイルは、長期的な準備や大がかりな装備を必要としません。多くの人が1〜2日で歩ける短めのラダック・トレックとして楽しんでいます。長距離の登山よりも、軽やかで文化的な旅を求める人にぴったり。出発前にレーで1泊して高地順応をしておくと、より快適に歩けます。

地図やGPSアプリ(Maps.meなど)があれば、ガイドなしでも歩けますが、地元ラマユルのローカルガイドを頼めば、道中の由来や物語を聞くことができ、旅がより深まります。ひとり旅の方や気軽に体験したい方には、レーにあるトレッキング会社がこのルートを含む文化体験パッケージを提供しています。

装備は軽く、でもしっかり準備を。リフィル式の水筒、帽子、風を防ぐジャケット、しっかりしたウォーキングシューズは必須です。夜は冷えることもあるので、夏でもフリースなどの防寒着を持っていきましょう。また、村にはATMもデジタル決済もないため、現金(小額紙幣)を持参してください。ただし、もてなしの心はどこにでもあります。

宿泊については、ラマユルでは僧院ビューのゲストハウスがいくつかあり、ワンラでは素朴で温かいホームステイが体験できます。Wi-Fiの代わりに、星空の静けさを、ルームサービスの代わりに、家族の笑顔と食卓が待っています。

観光地を「見る」だけでなく、その土地のリズムの中で「感じる」旅を望む方に、この道はぴったりです。足音をゆっくりと響かせながら、ラダックの空気、色、暮らしに、ひとつひとつ出会っていく。そんな旅を、あなた自身のペースで歩いてみてください。

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振り返る − 足元に眠る過去

ワンラに腰を下ろし、温かいお茶を手に、埃にまみれた靴を見つめながら感じるのは、単なる疲労や達成感ではありません。それは静かに訪れる気づき。あなたはこの数日、ただ風景の中を歩いたのではなく、何世紀もの記憶の上を歩いてきたのです。ラマユルからワンラまでの道は、地図に描かれた線ではなく、時間との対話そのものでした。

僧院の壁、谷をわたる祈りの旗、収穫を運ぶ村人たち。あなたの足が踏みしめてきたのは、観光地ではなく、いまも生きているラダックの過去と現在をつなぐ細道でした。この道に案内板も説明文も必要ありません。すべてが、静かな存在感としてそこにあるのです。

心に残るのは、高い峠でも、絶景でもなく、ふとした瞬間かもしれません。無言でほほえんでくれた女性、日差しに照らされたマニ石の文字、見知らぬ家族と囲んだ夕食のぬくもり。これらはどんなガイドブックにも載っていない、あなただけの宝物です。

ヨーロッパの旅人の多くが、観光地ではない「特別な場所」を探しています。でも、本当に貴重なのは、今も人が歩き、暮らしているこうした道なのかもしれません。ラダックのこの小さなトレイルは、冒険家のためのものではなく、日々を生きる人々の道なのです。私たち旅人にできることは、それを大切に歩き、静かに耳を傾け、感謝をもって去ること。

この道が教えてくれるのは、「過去」は決して遠くにあるのではなく、足元に、石の間に、人の暮らしの中に息づいているということ。それは本で読むよりも、実際に歩くことで、心と身体に染み込んでいきます。

この旅はワンラで終わりますが、その記憶はあなたとともに歩み続けます。帰国してからも、峠の風や、祈祷車の音、山々の静寂がふと思い出されるでしょう。そして気がつけば、あなた自身の暮らしの中でも、少しだけ足取りがゆっくりになっているかもしれません

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著者について

エレナ・マーロウはアイルランド出身の作家で、現在はスロベニアのブレッド湖近くにある静かな村で暮らしています。朝になると、ユリアン・アルプスから霧が静かに流れ落ちる、まるで劇場の幕が上がるような風景の中に身を置いています。

エレナは、ヨーロッパやアジアのあまり知られていない地域を旅しながら、人と土地が交差する物語を丁寧に書き続けています。ガイドというよりは、そっと扉を開けてくれる案内人のように、読者をその土地の生活と静かな時間へと導きます。

文学と文化人類学を学んだ背景を持ち、彼女の文章には詩的でありながら地に足のついた視点があります。彼女にとって、旅とは風景を消費することではなく、世界に参加するための静かな行為なのです。

旅をしていないときは、自宅のハーブガーデンを世話したり、古い旅行記を翻訳したり、愛犬パードレイグと一緒に窓辺で執筆したりしています。

エレナの書くコラムは、旅先の小道のようにやわらかく、静かに読者の心を歩いていきます。そしていつも、ひとつの思いに戻ってきます。それは「旅とは、どれだけ遠くへ行くかではなく、どれだけ深くそこにいるか」ということです。